会長あいさつ

                        愛知県左官業組合連合会 会長 川瀬和生

「建通新聞」建通新聞社 2007年4月20日より
 昨今、環境汚染や健康問題などが騒がれ、建築材料の安全性が注目される中、自然素材を利用した、「塗り壁」が脚光を浴びている。 しかし、その一方で、これをつくり出すはずの職人のなり手不足は深刻な問題に。今年70周年を迎える愛知県左官業組合連合会は、 そうした課題にどう立ち向かうのか。川瀬和生会長に展望を聞いた。     (聞き手は名古屋支局=永井孝明)

「岐路」に立つ専門工事業 −愛知県内 関連団体長に聞く−

−今年で創立70周年。これまでの歴史を振り返って。

「左官はまさに日本の伝統工法で、歴史をひもとけば古くは縄文時代にまでさかのぼる。 土という自然素材は、耐震性や耐火性に優れいるだけでなく、安心な健康生活にもうってつけの素材。 現場ごとの手作業に依存して、手間と時間がかかることから近代工法とは対極にあるのかもしれないが、 だからこその温かみを感じてほしい。 先人が築き上げた左官文化を日本文化だととらえ、今後も積極的にPRしていきたいと考えている」


−伝統工法と近代工法の共存はありえるのか。

「時代の変遷とともにニーズは変わり、塗り壁に対する需要の減少、材料の変化などによって スピードと低コスト化が優先される傾向にある。 業界の閉鎖体質にも要因があるといわれるが、左官業は昨今の価格競争に鳥の貸された感は否めない。 経営者としては、ニーズに沿った仕事をしなければ、経営が成り立たないというのが本音。 望む望まないにかかわらず、体質を変える必要性に迫られていることは事実だ」


−下請けに特化した受注体制にも要因があるのではないか。

「確かに、受注の大半は専属のゼネコンや工務店の下請けであることから、 われわれの主張が通りにくいという土壌ではわる。しかし、いくら価格やスピードが勝負と言えども、 程度の低い仕事をしていればいつかは世間から見放される。 勘定に合う合わないではなく、良い仕事を懸命にこなし、価値観を高めていくことで元請の理解と信用を勝ち取るよう 努力していくというのが組合員の一致した意見だ」


−努力をするというのを具体的に。

「われわれの存在価値は技術力しかない。いくら時代が変化しようが、こればかりは時代に左右されないもの。 組合員に対しては、組合の恥になるようなことは絶対するなと言い聞かせている。 特に最近は口コミによるリフォームなどが増えている。結局は人と人とのコミュニケーションが大切だということ。 技術に裏づけられた仕事と地域に根ざした活動を続けていれば、必ず新たな可能性が開けると信じている」


−新たな可能性とは。

「リフォームをはじめ、与えられた仕事は何でもこなさなくては生き残れない時代。 そうした意味で、われわれは『多能工』にならなくてはならない。また、近代化の波が押し寄せる中で、 おくすることなく新しいことにチャレンジする姿勢も必要不可欠だ。そのためにも、組合の若手で組織した 青年部に対する期待は大きい。組合が開催する勉強会や研修会で技術を磨くと同時に、それと並行して、 センスを磨き、新たな世界観を確立してほしい」


−その一方で、職人の高齢化と人材不足は深刻な問題と聞いている。

「職人のなり手不足は非常に深刻な問題。技能五輪に参加させるなど、積極的にPR活動をしているものの、 世間一般の認知度不足は否めない。他見では技能五輪で好成績を収めれば仕事が増加するというが、 愛知県ではそういった話はほとんど聞かない。 最近では、基幹技能者に対して経営事項審査での加点が検討されているようだが、それ以外に、 現場の配置義務付けや具体的な賃金として発注単価に組み込むなど目に見える形でのメリットがほしい。 そうした対策を講じることで、新しい雇用創出につながればとの期待はある」


−技術を磨いたその先にあるものとは。

「左官業は腰掛けで務まるほど甘い世界ではない。昔から『現場は戦場』と言われるように、 職人とは非常に過酷な労働だ。だからこそ、そうした努力や苦労に報いるだけの 地位と安定した生活を与えてやりたいと思う。 努力に比例した評価があってしかるべきだろうし、努力すれば夢はかなうという希望を持たせてやりたい。 要するに若い人たちが希望を持てる職種にしなければ明るい未来はないということ。 組合としては、そうした環境づくりが使命と考え、今後も一致団結して取り組んでいきたいと思っている」



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